久しぶりにGentooを使う機会があったので、以前(最後の使用は2008年)から変わっていることや新しく分かったことなどをメモする。今回は常用することにはならず、OSのインストール関係でのメモが主となる。今後もしばらくは使う予定はない。
- stage3のバリエーション
- インストール環境
- パッケージ管理関係
- lldでビルド時間短縮を図る
- バイナリが落とせるパッケージ
- ClangはGCCを置き換えられるか?
- genkernelはinitrd生成のみでの使用も可
stage3のバリエーション
OSをインストールするために使われる最低限のファイル群を書庫ファイルにまとめた “stage3” イメージは
- 無印 (OpenRC)
- systemd
- その他 (no multilibなど)
と分かれており、x86_64の “no multilib” はx86(32bit)のライブラリがシステム上で共存できず、完全な64ビット環境となる。これは用途を選ぶかもしれない。
他のディストリで既にsystemdのコマンドを使ったことがあって、なおかつOpenRCに興味がないのであれば、他のディストリと設定方法の共通しているsystemdでもよいが、他のディストリにおいてはインストーラが設定してくれるような所を手動で設定する場面が発生する上、Gentooでsystemdを使うために必要な設定もあるため、それらを別途Gentoo Wikiなどで確認することになる。systemdについては別ディストリ向けの情報も役に立つことがある(今回はArch Linux用のsystemd設定の一部を参考にした)。
今回はsystemd用を使ったが、Gentooのインストールに不慣れな場合は(Gentooの公式ドキュメントが想定している)OpenRCを使う方法が無難な印象がある。
なお、eselect profile ...
で扱うプロファイルについてもsystemd用は別に分かれている。
インストール環境
過去に実機にGentooをインストールした時(2005年の年末頃)はGentooのインストールCDから起動してハンドブックの内容を事前に紙にメモしたものを見ながら作業していたが、今回はインストールCDイメージは使わず、Ubuntu 20.10上でパーティション(今回は/
用と/var
用を用意した)をフォーマットしてからstage3を展開してハンドブックを直接Webブラウザで見ながら作業した。
事前にフォーマットを行っていた関係でハンドブックとは作業順の異なる部分があった。既に動いているLinuxシステムのGUI環境からのchrootによるインストールは、Web上のドキュメントを見ながら設定ファイルの編集をしたり、パッケージのビルドをできるときに少しずつ進めたり、必要に応じてメモや実行したコマンドなどをファイルに保存したりなど、作業の自由度が上がるので、やりやすかった。
パッケージ管理関係
make.conf関係
パッケージのビルドに関する設定を記述するmake.conf
は/etc/portage
の下に置く。GENTOO_MIRRORS
で国内ミラーを複数記述しておく。
インストール可能パッケージの情報や各パッケージの作成処理を含む “Portage tree” の既定の場所やファイルダウンロード先、バイナリパッケージ保存先の既定値も/var
の下の全く新しい場所に変わっている。
# was /usr/portage, see also /etc/portage/repos.conf/gentoo.conf
PORTDIR="/var/db/repos/gentoo"
# was /usr/portage/distfiles
DISTDIR="/var/cache/distfiles"
# was /usr/portage/packages
PKGDIR="/var/cache/binpkgs"
ライセンスの許可
ソフトウェアのライセンスが自由でない場合に、それをインストールするためには許可するパッケージについての記述を/etc/portage/package.license
に追加する必要が出るようになっている。
身近な例はカーネルのバイナリファームウェア。
このライセンス用ファイルに限らず、Would you like to add these changes to your config files? [Yes/No]
で設定ファイルに変更を適用することもやってくれるのだが、ファイル名が変わるので、自動で上書きされるわけではない。
~amd64などのインストール
package.keywords
というファイル名ではなく/etc/portage/package.accept_keywords/
以下のファイルに記述する形になっている。
x86_64におけるmultilib
x86_32用にビルドする必要のあるパッケージがあるときには/etc/portage/package.use
で各パッケージにabi_x86_32
を付けることが要求されるが、これも適用後の設定ファイルを書き出す機能があるので、個別に手動で記述する必要はない。
Wineなどの32bitアプリケーションを使うことを考えている場合、インストールの初期の段階でpackage.use
を編集して32bit版ライブラリのビルドを行うようにしておいたほうがインストール時間が短縮できる。
手元の環境では、後からmultilibのための記述を追加した結果、ビルドに時間のかかるLLVMとClangを余計に再ビルドするはめになったため、次回stage3からインストールする機会があった場合は気をつけたい(LLVMやClangが入ったstage3があれば良かったのだが…)。
32bit版のMesaを入れようとするとLLVMのライブラリも32bit版が必要になるのがGentooではつらい。
パッケージビルド時の改善された挙動
いつから変更されたのかは不明だが、幾つか気付いた改善点。
- 複数パッケージインストール時のソースファイルのダウンロード処理はパッケージのビルド中にバックグラウンドで行え、多数のパッケージをインストールする際に時間を効率よく使える
- CMakeを使用したプロジェクトは高速なNinjaバックエンドが選択されてビルド時間が短縮される
- ビルド用ツリーの最終的な使用領域サイズとシステムへインストールされるサイズがシステムへのインストール時に表示される
lldでビルド時間短縮を図る
2020年11月時点では、最も高速なリンカ実装のlld
がパッケージとしてインストール可能なものの標準では使われていない。ビルド時間短縮に役立つので、sys-devel/lld
をインストール後にmake.conf
のLD
に指定する。
LD="/usr/bin/ld.lld"
なお、同月時点ではClangにはdefault-lld
というUSEフラグがある。
バイナリが落とせるパッケージ
あまり自分ではビルドしたくない、一部の大型パッケージを並べておく。
sys-kernel/gentoo-kernel-bin
app-office/libreoffice-bin
www-client/firefox-bin
www-client/google-chrome
dev-java/openjdk-jre-bin
dev-lang/rust-bin
mail-client/thunderbird-bin
dev-lang/rust
については、自分でビルドするのが標準のようだが、ビルドには7-8GiBの空き領域が必要で時間もかなり要するということで、個人的にはソースからビルドするメリットが見出だせない。
他にPyPy3のバイナリを提供するパッケージもあったのだが、今回は動かなかった。
ClangはGCCを置き換えられるか?
今回は、早期にClang (10.0.1)をインストールした上で残りのパッケージをClangでビルドしてみることにした。
LLVMとClang本体それぞれにかなりビルド時間がかかった上、Clangでビルド中のパッケージでビルドエラーが出たり、GCC(9.3.0-r1, stage3のバイナリを使用した)でビルドしないと依存した別のパッケージがエラーになるといった謎の不具合に複数遭遇したため、無難にいきたいならまだGCCを使ったほうがよさそう。
dev-lang/spidermonkey-60.5.2_p0-r4
: GCCでビルドしないと別パッケージが “undefined reference” のリンク時エラーを出す (https://bugs.gentoo.org/681656)sys-auth/polkit-0.116-r1
: GCCでビルドしないとビルドエラーsys-boot/efibootmgr-16
: 上に同じmail-mta/nullmailer-2.2-r1
: 上に同じmedia-sound/pulseaudio-13.0
: 上に同じdev-libs/elfutils-0.181
: 上に同じdev-libs/libgcrypt-1.8.6
: 最適化フラグ関係の処理がうまく動作せずにビルド失敗
genkernelはinitrd生成のみでの使用も可
ハンドブックにあるように、カーネルビルドの過程を手動で行った場合でもgenkernel
がinitrdの生成のみを行うことができる。今回はこれを用いてinitrdを作成した。